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B型肝炎は、B型肝炎ウイルスに感染することにより発症します。
B型肝炎には、一過性感染、または、持続感染という2つの感染様式があります。多くの感染者は一過性感染を経て治癒しますが、中には持続感染となり、生涯、B型肝炎ウイルスが体内に残る場合もあります。
一過性感染は、急性B型肝炎、または、B型肝炎ウイルス不顕性感染に分けられます。
持続感染もまた、B型肝炎ウイルス無症候性キャリア、または、慢性B型肝炎とに分けられます。
乳幼児ほどリスクが高い
わが国では、無症候性キャリアの患者さん(但し、多くは体内のウイルス量が多い、HBe抗原陽性の方)から、3歳以下の乳幼児がB型肝炎ウイルスの暴露をうけ、その子どもたちの多くが無症候性キャリアになっています(キャリア化)。すなわち、現在大人でB型肝炎による慢性肝炎、肝硬変、肝がんで苦しんでいる方たちの多くは、乳幼児期の感染が原因とされています。
急性B型肝炎
一過性感染の一型である急性肝炎は、感染してから早ければ1ヶ月後に、遅い場合は6ヶ月の潜伏期を経て発症します。感染時のウイルス量と、感染したウイルスの遺伝子型により発症までの潜伏期間が異なります。はじめは疲れやすいという症状から始まり、しだいに、肝臓の機能が悪化して、黄疸という状態に至ります。黄疸が現れて初めて診断される方も多く見られます。通常は1ヶ月〜2ヶ月程度の入院治療で改善します。しかし、1%程の患者さんは劇症肝炎といって、急激に肝臓の機能が悪化して、不幸な転帰を取ることもあります。
B型肝炎ウイルス不顕性感染
不顕性感染はもう一つのタイプの一過性感染です。不顕性感染とはB型肝炎ウイルスに感染しても自覚症状がないまま、ご本人も気がつかないうちに治癒するものです。以前は、一過性感染から持続感染に移行することは稀であるとされていました。しかし、近年、ウイルスの遺伝子型によっては一過性感染の10%前後が慢性化(キャリア化)することがわかってきました。これは、肝臓の機能が改善しても、体内にウイルスが潜伏しているからです。
ここで、ワクチンで予防できる他のウイルス感染症と比較してみましょう。麻疹(はしか)やインフルエンザなどの病気は、ウイルスに感染した場合、それぞれのウイルスに特有な症状が現れるため、そのウイルスに感染したことが患者さんご自身に判ります。
ところが、B型肝炎はウイルスに感染しても、すべての感染者にB型肝炎特有の症状が現れるわけではありません。そのため、不顕性感染の患者さんや、無症候性キャリアから慢性肝炎に移行した初期の患者さんは、感染したこと自体に気がつかずに生活している場合があります。ここにも、B型肝炎ワクチンの有用性が見いだされます。
B型肝炎ウイルス無症候性キャリア
持続感染のうち、無症候性キャリアと呼ばれる患者さんは、ふだんは症状が認められないのですが、患者さんの体内にはB型肝炎ウイルスが潜んでいます。この状態の方は、定期的にかかりつけ医を受診して、医師による診察・検査が必要です。無症候性キャリア患者さんの10%〜15%は将来、慢性肝炎を発症し、治療が必要になるとされています。また、無症候性キャリア患者さんでも、急激に肝機能が悪化し、黄疸や場合によっては意識障害がみられることがあり、これを急性増悪といいます。さらに、無症候性キャリアの患者さんは、特定の条件のもとでは感染源になり得ます。
日本には130万人〜200万人の無症候性キャリア患者さんがいると推定されており、そのうち約90万人は感染に気づいていない(診断されていない)そうです。
慢性B型肝炎
もう一つの持続感染は慢性B型肝炎と呼ばれる状態です。慢性B型肝炎は治療が必要な状態です。放置すると将来的には、肝硬変、肝臓がんに移行することがあります。
詳しい情報はこちら
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厚生労働省作成
「B型肝炎について(一般的なQ&A)平成18年3月 改訂第2版」 |
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B型肝炎ウイルスの感染経路には水平感染、および、垂直感染という経路があります。
垂直感染とは、お母さんから赤ちゃんへ感染する経路(母子感染)が代表的です。家系図を思い浮かべてみてください。普通、親子の間は縦の関係です。縦の関係=垂直という発想から、垂直感染と呼ばれるようです。
水平感染とは、例えば夫婦間の感染をイメージしてください。やはり、家系図を思い浮かべると、夫婦は横並びに表記します。「夫=妻」のように水平に記載します。このことから、水平感染と呼ばれるようです。稀な例ですが、祖母から孫へ感染した例、赤ちゃんから父親に感染した例も報告されており、これも水平感染です。
垂直感染の予防
日本では、1986年(昭和61年)から、公費によるB型肝炎ウイルス母子感染予防措置が行われています。この予防措置により母子感染(垂直感染)は顕著に減少しています。しかし、専門医が注意深く予防措置を行っても、3%〜5%の赤ちゃんはキャリア化してしまいます。とても稀な例ですが、出生時に感染してキャリア化し、13歳で肝がんを発症した例が日本から報告されています。今後、すべての赤ちゃんがB型肝炎ワクチンを受けられるようになれば、将来は子どもの頃からB型肝炎による肝がんを発症するという大変な事態は避けられでしょう。
水平感染の予防
B型肝炎ウイルスはとても感染力が強いウイルスです。お子さんの将来における水平感染を防ぐためにも、B型肝炎ワクチンは極めて有効です。
厚生労働省作成の「B型肝炎について(一般的なQ&A)平成18年3月 改訂第2版」では、Q13「どのような人がB型肝炎ウイルスの検査を受ければ良いですか?」という項目の回答の中に、「b.家族(特に母親、同胞)にB型肝炎ウイルスキャリアがおられる方」という項目があります。更に、Q23「B型肝炎ウイルスは家庭内で感染しますか?」という項目の回答の中に、「4.乳幼児に、口うつしで食べ物を与えないようにする」という回答があります。これらは、家族内でも水平感染が発生することがあり、また、唾液からでも感染する可能性を示唆するものと考えることができます。
以前、B型肝炎ウイルスは血液を介して感染するとされていました。しかし、Q20には「感染している人の血液の中にB型肝炎ウイルスの量が多い場合には、その人の体液をなどを介して感染することもあります」と明記されており、平成18年3月時点における厚生労働省の先見的な見解をうかがい知ることができます。そして、近年、涙、唾液、汗、尿の中にもB型肝炎ウイルスが排泄され、涙からB型肝炎に感染することが日本の研究者によって証明されました。(すべてのB型肝炎患者さんの涙から感染するということではありません。)
これらのことからも、水平感染の予防には、免疫を持たない全ての人、特にキャリア化しやすい小児は、B型肝炎ワクチンを接種し、感染を予防することが最良なのです。
不用意な言動はB型肝炎の患者さんを傷つけます
B型肝炎の患者さんにとって、治療はもちろん、経過観察の定期健診であっても心身ともに大変なエネルギーを必要とします。そして、ご自身の病気ががん化しないかどうか、更に、将来の子どもへの感染の心配など悩みが多いものです。
Q24には「ごく常識的な日常生活の習慣を守っているかぎり、保育所、学校、職場などの手段生活の場でB型肝炎ウイルスキャリアが他人にB型肝炎ウイルスを感染させることはないことを示す」という事例が載せられています。
しかし、自然科学には100%安全ということはあり得ません。B型肝炎ウイルスは感染力が強いことは確かです。ですから、万が一を考えてB型肝炎ワクチンの接種が必要なのです。
さらに、Q24には「B型肝炎ウイルスキャリアであることを理由に保育所、学校、介護施設などで区別したり、入所を断ったりする必然性はありませんし、また許されることではありません。」と明記されていることもご理解ください。 |
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B型肝炎ワクチンの接種により、ほとんどの人が感染を防止することができます。
通常は3回接種すると十分な免疫がつきます。まれに免疫がつきにくい人がいますが、抗体検査をすることで確認できます。この場合は必要に応じて、もう1クール(3回)ワクチン接種を受けることをお勧めします。
世界初のがん予防ワクチンです。肝がんを予防します。
肝がんは世界で5番目に多く見られるがんです。肺がん、乳がん、大腸・直腸がん、胃がんに次いで多く見られます。
また、肝がんはがんによる死因の3位を占めています。そして、世界中の肝がんの80%はB型肝炎から発症します。
一方、日本では、肝がんの多くはC型肝炎から発症しています。日本の肝がんの15%はB型肝炎から肝硬変を経て肝がんに移行したものです。 |
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大人では接種部位の発赤や軽度の発熱が数%にみられることがあります。小児ではこれらの副反応はまれにしかみられません。 |
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涙、唾液、汗、尿の中のウイルス、及び感染実験について |
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B型肝炎患者さんの、涙、唾液、汗、尿の中には、B型肝炎ウイルスが含まれていることがあります。これは日本の小児肝臓病を専門に研究している医師により証明され、海外の権威ある医学雑誌に掲載されました。
研究要旨(意訳):対象はB型肝炎ウイルスによる持続性感染の小児39名。対象者の唾液、尿、汗、涙の中のB型肝炎ウイルスを、DNAの量を測定する方法で調べ、B型肝炎ウイルスが存在することを証明しました。血液のウイルス量と、唾液・涙のウイルス量との間には正の相関がありました。更に、ヒト肝細胞を移植したマウスに、小児の慢性B型肝炎患者さんの涙を静脈内投与する実験を行ったところ、1週間後にマウスの血液中からB型肝炎ウイルスが検出されました。このことからマウスに移植したヒト肝細胞が、涙からB型肝炎に感染したことが証明されました。(すべてのB型肝炎患者さんの涙から感染するということではありません。)
原文(英文):
Tears From Children With Chronic Hepatitis B Virus (HBV) Infection Are Infectious Vehicles of HBV Transmission: Experimental Transmission of HBV by Tears, Using Mice With Chimeric Human Livers
Haruki Komatsu, Ayano Inui, Tsuyoshi Sogo, Akihiko Tateno, Reiko Shimokawa, and Tomoo Fujisawa
参考URL:http://jid.oxfordjournals.org/content/early/2012/05/03/infdis.jis293.full.pdf+html
上述の論文(著者:小松陽樹、乾あやの、ら)に対するデンマークの小児科医からの支持コメントです。
「我々はB型肝炎ワクチンを接種できる現在において、どうして、まだB型肝炎の水平感染について議論しなくてはいけないのか?」という、ワクチンの普及が遅れていて残念だという気持ちを表した題名が付けられています。
要旨(意訳):B型肝炎はワクチンで予防できる病気です。しかし、B型肝炎ワクチンが使用できるようになってから20年も経過したのに、まだ感染を押さえ込むことができません。B型肝炎ワクチンをハイリスクの対象者にしか接種していない国では、水平感染を予防するために、患者さんの体液からの感染についてまで研究をしなければなりません。小松らは、今回、涙から感染するという成果をマウスを用いた実験で示しました。WHOも推奨しているように、すべての国でB型肝炎ワクチンを定期接種化することが、肝硬変や肝がんなどの原因となるB型肝炎をなくす、唯一の方法なのです。
原文(英文):
Horizontal Transmission of Hepatitis B Virus—Why Discuss When We Can Vaccinate?
Ida Louise Heiberg and Birthe Hogh
参考URLhttp://jid.oxfordjournals.org/content/early/2012/05/03/infdis.jis294.full.pdf+html |
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このページに記載された内容の一部は、第52回感染・免疫懇話会(平成24年6月23日、葛飾区医師会)の講演内容および資料に基づき、当院の責任において改訂しました。ご講演を賜った加藤直也先生(東京大学医科学研究所)、乾あやの先生(済生会横浜市東部病院こどもセンター肝臓・消化器部門)、および、松永貞一先生(葛飾区医師会感染・免疫懇話会筆頭世話人)に深謝いたします。
なお、内容についてのご意見は当院までお寄せください。 | >
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